ナーディルっていう生徒がいます。
こんな子。今年10歳になったところ。この子が今回主役。
ここに着任して以来、ずっと指導しています。すごく身体能力が高くって、パワフル。体重移動の才能があるし、瞬発力もピカ一。柔軟性が少ないので、持久力は少なめですが、平泳ぎとバタフライの短い距離がずば抜けて優れているタイプ
そんな彼。
でも・・・
ま~~~~可愛くない。
なんせ騒がしい。落ち着きがない。1回こっちが言ったことを、何回も聞き返してくるし。勝負が大好き、人に勝ちたい願望強すぎ。
例えば・・・
ナーディル「ナタリー、この前の試合、50m平泳ぎ何秒だった?」
ナタリー「43秒3よ」
ナーディル「オレ42秒~~♪ オレの方が速い~~(^-^)」
ナタリー「(イラッ!)」
こんな調子でみんなに話しかける。ウォーミングアップでも、誰かれ構わず勝負を挑み、勝っては「オレの方が速い~~~」
練習前や練習後も、友だちに「今日の最後の練習、何秒だった?」「昨日のデータ、オレ平均1’30”だったぜ!
お前、もっと遅かっただろう!?」
「この前の試合のタイム、あとシリア新記録まで6秒だ!」
こんな会話ばっかり。
もし、私の近くにいたら、絶対に、友だちになりたくないタイプ。
それはこちらでも同じようで、友だちといえる子は、あまりいないのです。
そういう感覚は、万国共通なんだな~~
だから練習も誰よりも早く来て、私とタイムの話。練習中は、いつも誰かに小突かれて、それで泣いちゃう。練習後もロッカールームに行ったら、自分のタイムの話。周りの子どもは嫌気がさして、さっさとプールの外でボール遊び。
だから、一人ポツンとパンツ姿で着替えている彼をいつもいつも見ています。指導者として、【えこひいき】や極端な冷遇はいけません。でもね、あまりにしつこくて、こっちが疲れている時は、冷たくあしらっちゃうんですよね~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そんな彼ですが、勝つことに対しては、ものすごい執着心だから、技術向上に対しても、ものすごい執着心。なんせ速くなりたいから。実際、ナタリーと同じくらい、呑み込みが早い。
ナタリーには温かい愛情を持って、かなり厳しくしていますが、ナーディルには、どちらかというと冷たーい愛情でめちゃくちゃ厳しくしているわけです。
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一方、彼がオマル・アッバース(以下アッバース)12歳。
彼は私が指導していません。指導者は『ハイサム』コーチ。まー、彼(アッバース)も腹立つ生徒。
去年末、シリア新記録を更新するための公認記録会がありました。彼も身体能力がすごく長けているタイプの子で、4種目くらいかな?シリア学童新記録を更新しました。まさにシリアの星。ここら辺では、超有名人な訳です。
そのせいかして、まー、傲慢。調子に乗ってる。関西弁で、『イキリ』。そして、親金持ち。
私に対して「カズ~」と名前のみ。
※本来は「ウスターズ・カズ(かず先生)」と呼ぶべき。ま、この前ほっぺひねって「ウスターズカズって言え!」って指導しましたが。
まぁでも親が金持ちっていう要素以外、そこまで嫌いではないんですけどね。素直だし、子どもらしい。まぁ多少、腹立たしい感じ。
でも、残念ながら、技術的に問題があって、近いうちに頭打ち(伸び悩む)やろな~と予想。
そんなこんなで、うちの生徒が彼をやっつけるのもそんなに先の話でもないな、と思っていました。
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実際、いいところまで、彼を追いつめているんです。うちにはアッバースと同い年の「ムハンマド」という生徒がおり、頭が良くて、素直で勤勉で顔もかっこいい。
私は彼にずっと期待をかけているのですが、どうしても、「アッバース」ブランドに負ける。何度か、直接対決(100mFrや50mFr)があったのですが、ことごとくタッチの差で負けてしまう。やる前から気持ちで負けているんですね。賢い分、「アッバース」ブランドが彼の中で大きいのです。
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そんな、あんまり可愛くない教え子「ナーディル」と腹立たしい2歳年上の生徒「アッバース」が先日の試合で、「100m平泳ぎ」にて直接対決をしました。
50m平泳ぎのベストタイムは
ナーディル 42秒6
アッバース40秒8
アッバース圧倒的有利。
でも、ナーディルの方が練習量も豊富でスタミナあるから、ええ勝負はするやろーなーと予想はしてました。同僚オーマルにも、「ま、いい勝負はすると思うよ~」とは言ってました。
でも、同僚オーマルにとっても「アッバース」ブランドは強いらしく
オーマル「まだ早いだろ、アッバースだぞ。」と。私もそれに同意。まだ早いよね、と。
---------------そんなこんなで、レース開始--------------
ナーディルとアッバースは隣同士。
友だちは少ないけど、「アッバース」ブランドなんか、まったく気にしない
勝負に対する執着心の塊・ナーディル。泳ぐ前から集中力がみなぎりまくり。
そして、よーいドン。
スタート直後から、リード。25mはナーディルがリード。50m、同じくナーディルがリード。75mのターン、アッバースが追いつく。残り15m、まさかのナーディル・スパート明らかにナーディルがリードしてゴール!!!!
勝ってもーたー(^-^)
同僚オーマル大喜び!連盟長や、その他コーチたちも
「あのアッバースが負けた!!!」
生徒たちも
「ナーディルが勝っちゃった!!」
指導しているハイサムコーチは
何とも言えない驚きの表情。まさか、負けるとは・・・みたいな。
※写真撮れば良かった…
ナーディルの父親は、いち早く私たちのところに来て大騒ぎ!※彼もまた、かなり曲者。ま、この親にしてこの子あり。
アッバースの父親は(いつもは私と仲いいけどいいけど)超不機嫌。
私自身、この二人のタイム自体、大したことないから
※ナーディル 1分31秒2
アッバース1分32秒0
そんな大騒ぎしなくてええやん~~~っていう感じなんですけど、当事者(選手・コーチ・保護者)の中では大事件(^-^)
あ、私も当事者か…
ナーディルはもう胸張っちゃって、
意気揚々とプールサイドをずんずん歩く。そして、たくさんのコーチ・生徒たちから「マブルーク!マブルーク!(おめでとう!)」と祝福されたりして。
あの嫌われ者のナーディルが!一夜にして・・・
『シンデレラボーイ』!!!
頭の中で、まさにこの言葉がよぎりました。そして、この状況が、なぜか私は滑稽に感じてしまって、笑いが止まりませんでした(^-^)
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「良い選手になる前に、
良い人間にならなければならない。」
タイガーウッズのお父さんの言葉です。
彼の勝利は、確かにいいことなのですが、友だちも、たくさん作ってほしいんですよね~。それも(その方が)大切だもの、人生。
そこを教えられるのかなぁ…そこを教えないと、彼にとって本当の意味で
「良い結果」ではなくなるからなぁ…
でも、自信ないなぁ…
複雑な気持ちになった瞬間でもありました。
ではまた。
かずさん…!
返信削除なんだよ!?なんか聞いた??
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